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シアワセ
自分のくしゃみで目が覚めて、ぼやけた視界でちらりと周りを見回す。部屋の中はまだ暗い。きん、と空気が冷えている。どうやら夜明けはもう少し先らしい。
そうして上げていた頭を再び枕に沈めてまず目に入ったのは、真っ黒な髪と閉じられた瞼。
軽く寝息をたてながら此方を向いて眠る男の顔は何処かあどけなくて、昼間は鬼などと呼ばれているのが嘘みたいだ。
だからこの男のこんな顔を見られるのは自分だけ。俺だけの特権。誰に対するものかも分からない優越感に身体が満たされていく。
もっとも、こんな関係になってからまだ半年ほどしか経っていないし、見られるようになったのもつい最近のことなのだけれど。
おまけに起きるのは何時も俺より早いもんだから、その寝顔を拝めることもほとんどない。
それでもひと月前までは此方に背を向けて眠っていたのだから、随分とこの関係に慣れてきものだ。素直じゃないのは相変わらずだが、それはお互い様だから言わないことにする。
ひやりとした、明け方前独特の空気が剥き出しの顔を撫でて冷たい。目が覚めて体温が上がったせいか、布団の中がやたら寒く感じられる。
折角なので、暖を取るついでにこの貴重な寝顔を近くで堪能させてもらおうと、ゆっくりと男を抱き寄せる。すれば、流れる前髪の向こうに隠れていた男の眉間が、僅かに寄せられているのを見つけた。
眉間に皺なんて、一体夢の中で何をしているのか。まさか夢の中でまで仕事をしているのだろうか。まあワーカーホリックなこの男のことだ、あながち間違ってはいないかもしれない。
どこまでも『らしい』男に思わず苦笑する。せめて眠ってる時くらいゆっくり休めばいいのに。
背中に回した左手で、ぽん、ぽん、と軽くリズムを取ってやる。男の頭の下に通した右手は黒髪をすく。
まるで赤子をあやすような、けれど不思議と安心するそれに、男の眉間に刻まれていた皺が少しずつ消えていった。
これで夢の中の男もようやく休めただろうか。しかし夢を覗くことは出来ないので、まだ両手の動きを止めることはしない。
この男は普段、こんな風に抱きしめられるのをひどく嫌がる(もちろん恥ずかしいからなのはよく知っている)。ならばこの機会に思う存分楽しんでおこう。
そう思い、抱きしめる腕を少しだけ強くすれば。

「…なにしてんだテメェ」

聞こえてきた、少しかすれた低い声。腕を緩めれば、僅かに瞼を持ち上げて男が此方を見つめていた。

「あらら、起こしちまった?」
「なんだこの腕」

抱きしめられていることに気づいて身動ぐ男を離すまいと腕に力を入れる。さらに近くなった距離に、何のつもりかと男が睨めつけてくる。
それに苦笑を返して、左手でまた背中を叩いてやる。

「ンなに警戒すんなって。別に何もしやしねーよ。ただちっとばかし寒くなったから、温まろうと思っただけだって」
「ざけんな俺ァ湯たんぽじゃねェんだよ離しやがれ」
「そう照れんなよ」
「誰が照れてるっつったクソ天パ。寝るのに邪魔くせぇから離れろって言ってんだ」
「あ、ちょっ、動くなって」

ゴソゴソと此方に背を向けようとするのを何とか押さえつける。
しばらくは逃れようともがいていた男だったが、さすがに寝起きに暴れる元気はないのか、二、三度ほど抵抗したところで大人しくなった。
そしてチッと舌を打ち、不機嫌そうな目で再び此方を睨み上げた。

「ったく、何がしたいんだお前は」
「まぁまぁ、たまにはこういうのもいいじゃねーの」
「良くねーんだよバカ。さっさと寝ろよ。そしてもう二度と起きてくるな」
「そう言うなって。今日オメー非番なんだろ?寒ぃし、銀さんを温めてよ」

ぽん、ぽん、と。ゆっくりリズムを取る。手入れなどしていない、少し痛んだ黒髪に指を通す。
何度か繰り返してやれば、抱き寄せた男の身体から次第に力が抜けていって。

「……今回だけだからな」

ふん、と、何処かふて腐れたように吐き出された言葉に口の端が持ち上がる。その声音が意味するところを知っているので何も言わない。
だから代わりに額へキスをしたら、調子に乗るな天パと脚を蹴られた。
互いの体温がじんわりと伝わって、もっとそれを感じたいと腕に力を込める。心地よい温もりが身体を包み込む。
再び目を閉じた男が、もぞりと動く。少しだけ、近くなった二人の距離。
胸を満たす暖かな何かに笑みを深くする。
そして、やがて腕の中の男から安らかな寝息が聞こえ始めた頃、緩やかにやってきた眠気に誘われて、俺も静かに瞼を下ろした。



end.



***

リハビリ、リハビリ
posted by: 高槻ソラ | - | 14:39 | comments(0) | - |-
二息歩行
「お前とひとつで生まれてきたかったよ」


白い肌を見つめながら零せば、目の前にいる片割れの瞳が哀しげに眇められた。
そんな眼をして欲しいわけじゃないのに、と、自分とは似ても似つかない、真っ直ぐで烏の濡羽のように綺麗なその髪に右手を伸ばして指を絡める。心地よく指の間を流れ落ちるそれが愛しくて仕方なかった。


「そしたらこの先ずっと、お前と一緒にいられる」


同じ母親の腹からほぼ同時に取り上げられて、けれどたった数分の差で兄と弟に分けられた俺達。
生まれる前から一緒で、それは物心がついてからも変わらなくて。
今までも、そしてこれからもずっとずっと一緒にいるのが当たり前だと思っていた。俺達は、一緒の『世界』で生きてきた。
けれど、俺達は『ふたつ』の人間で。
どうしたって『ひとつ』にはなれなくて。
どうしてなのだろう。俺とお前が『世界』のすべてなのに。
いつかこの手を離さなければならないのだと、『正しい』世界が意地悪に嗤う。


「俺にはお前だけがいればいい」


俺が口に出せるのは片割れを求める言葉だけ。
他の言葉を知らない俺はただただ歪んだ愛を吐き続け、目の前の存在に必死に手を伸ばす。
けれど、共にあることが許されないというのなら、いっそ。


「お前が俺の息だけを吸って生きればいいのに」


そうすれば一生離れることなんてないのに、と。
きっとそれすらもお前を傷つけ、お前の人生を切り裂く凶器でしかないというのに。
髪を絡めていた手でするりと撫でた頬の熱が痛い。瞳に映る自分の顔が、みるみる歪んでいくのを、見た。


「―――だったら、」


ふわり、右手に重ねられた手に指を絡めとられ、冷たい指先に熱を奪われる。
俺を見つめる瞳は未だ深い哀しみを湛えている。
薄いその唇がゆっくりと言葉を紡ぎ出す。


「お前は今から、俺の息を吸って生きていけばいい」


目をそらせない。


「俺はお前の、お前は俺の息だけを吸って生きていく」


柔らかな唇が、俺の唇を食む。


「お前の言葉が俺を傷つけるんだってお前が泣くのなら、その言葉がお前の口から零れる前に俺が飲み込んでやるよ」


唾液で錆びついた言葉はまるで麻薬のように心を捕らえて離さないから。


「俺も、お前だけが側にいればそれでいい」


そうして互いに深く口づけた。
舌を絡めて、互いの息を吸って、すべてを飲み込むように深く深く。
他の何をも欲しくはない。ただお前がいれば倖せなんだ。
ああ、この倖せのためなら息絶えたっていいのに。
哀しみの味だけが色あせることを知らない。



end.


***

双子銀土。依存愛。
もうちょっとさらりとした依存が書きたかったなぁ…。
どっちが兄で弟なのかはご想像におまかせします。

話のイメージとタイトルは某ボカロ曲より。


.
posted by: 高槻ソラ | - | 23:22 | comments(0) | - |-
贈る言葉
ねえ。




好き。好きだよ。大好きなんだよ。




ずっとずっと考えてしまうんだ。




まだ幼さを少し残した綺麗なその顔に触れたい。




真っ直ぐな強いその眼で見つめて欲しい。




薄くて綺麗な形をしたその唇の熱を感じたい。




いつもいつでも君を想っているんだよ。




けれど、この狭い世界を旅立って大人へと変わりゆく君は、きっと多くの人に出逢うのだろう。




そこに俺の居場所など、ある必要なんてないんだよ。




ねえ、そんな眼で俺を見ないで?




あれほど望んだ視線が、今は苦しくて仕方がないんだ。




どうしても応えるわけにはいかないんだよ。




だから俺は、愛してるの代わりに君に云う。






「卒業おめでとう」






end.



***

3Zはどうしても切ないイメージになってしまいます。



.
posted by: 高槻ソラ | SS | 20:16 | comments(0) | - |-
dolce
まるで、砂糖菓子のような感覚






「あ、コレちょーうめぇ」
「この前志村に作り方聞いたから、作ってみた」
「やっぱオメー料理上手な。さすが俺の嫁」
「…誰が嫁だ」



同じテーブルで2人向かい合って摂る晩飯

色違いで揃えた箸と茶碗

美味しいという言葉


「照れてんの。か〜わい」
「誰が照れるか。いいからさっさと食え。これマヨネーズたっぷりトッピングすると更にうま」
「ごめんなさいマジそれだけは勘弁して下さいホンットすんません」
「…テメェ覚えとけよ」



くだらない張り合い

くだらない喧嘩

くだらない会話



「あ、米粒付いてんぞ」
「あ?どこに」
「口ンとこ。ほら」
「ん。て、食うなよ」
「新婚夫婦みたいでいいじゃねーか」



呆れた顔

優しい笑顔

穏やかな時間

そのどれもが柔らかく全身を包み込む



「あー食った食った。もう腹ァいっぱい」
「そりゃ良かったな」
「また作ってくれよコレ」
「おう」



時々くすぐったくて仕方ないけれど

慌ただしく過ぎていく日々の中で、一番ほっとできる空間

大事だと思える時間



「さてと。食後にゃやっぱデザートだよな、デザート」
「お前まだ食う気か?いい加減にしねーとマジで糖尿悪化すんぞ」
「いやまだ糖尿じゃないから寸前だから。それに太るモンじゃねーから大丈夫だって」
「?一体なに、っ」






(今までも、きっとこれからも、ずっとずっと)






「……ごちそーさま」
「…恥ずかしいヤツだなテメェ」






こんな倖せが、続きますように



end.
posted by: 高槻ソラ | SS | 23:27 | comments(0) | - |-
群青※銀銀(?)
※銀八土前提、銀→銀八






決して触れてはいけないような気がしていた






「…何してんのお前?」
「マジでちゅーする5秒前」
「何言ってんのお前?」

頭大丈夫か〜、と、何時もと変わらない調子で言葉を吐き出す唇との距離はおよそ15センチ。少し上半身を動かせばすぐにでも触れられる。
ちょーマジっすよ、なんて返してみるが、マジでか、とまるで他人事のように呟いて俺を見上げる先生の表情はこれっぽっちも変わらなかった。

「つーか首痛ぇんだけど」

そりゃそうだろう。身体は机に向かって座っているのに、顔だけ横に立つ俺の方を見上げているのだから。その上俺の両手がその頬をがっちり固定してるもんだから、先生の首はもう5分も不自然に捻れたままだ。
指に先生の頸動脈がドクドクと脈打っているのが伝わってくる。触れた肌は確かに温かい。
一体何がしてぇのと聞かれたけれど、ただ黙って眼鏡の奥に潜む藍色を見つめていた。

「なあセンセー、ちゅーしていい?」

親指でそっと唇をなぞる。見つめる藍色は動かない。まるで感情なんてものは初めからそこに存在していないかのよう。
さっきはあんなにも『色』があったのに。

「お前、ちゅーなんてものはだなぁ、」
「さっき、してたでしょ」

見てたんだ、俺。
そう言えば冷たい藍色が初めて大きく揺れた。俺は口の端をゆっくり持ち上げる。
胸の奥がズキリと小さく痛んだのには気づかないフリをした。






(放課後の教室、少しだけ開いていたドア)

(風に揺れる黒髪と銀髪)

(ほんの一瞬触れ合った、唇)

(銀糸のすき間に見えた瞳は優しさに満ちていた)






だから、気づいてしまったんだ






「なあ、キスしていい?」

二度目の言葉に先生は答えない。ゆっくりと上半身を傾けた。
少しずつ縮まっていく距離。そっと目を閉じる。
瞼の裏に浮かんだのは、深い深い、碧。
綺麗なその色が、また胸を締めつけた。



(だけど、分かってる)



「―――駄目だ」

拒絶の言葉と共に手で口を覆われる。瞼を持ち上げれば、先生のくるくるの銀髪と眼鏡と藍色の瞳がほんの数センチ先にあった。
もう揺れていない瞳が真っ直ぐ俺を見つめている。

「ここは、駄目だ」

もう一度言われ、口を覆っていた手が外される。俺も身体を起こし、先生の顔を固定していた両手も同時に降ろした。
互いに見つめ合ったまま、先生と俺の間に沈黙が横たわる。その何とも微妙な空気を壊したのは、俺だった。

「冗談だって」

軽い口調でヒョイと肩を上げておどけて見せる。何マジになってんスか先生。ニヤリと口角を持ち上げ笑った(つもりだ)。

「最近全然ちゅーとかしてないもんだから、久しぶりにしてみたくなっただけだって。あ、心配しなくても、別に言いふらすつもりなんかねーんで安心してよ。あーあ、どっかに可愛い女の子いねぇかなぁ」
「坂田、」

凛と響く声が俺を呼ぶ。相変わらず先生は俺を見つめたまま。ポケットに突っ込んだ手をこっそり握り締めた。
分かっていた。先生が『誰か』に想いを寄せていることも、それが『誰』なのかということも。
そんで俺は、どうしたって先生にとっての『誰か』にはなれないことも。
全部全部分かって、いた。



俺なんかが触れていい所なんか、ありはしないんだ



「ごめんな」

だから、その唇でそんな言葉を言わないでよ、先生。






じわり滲んだ藍色が、とても綺麗だと、思った。






end.



***

銀銀を書いてみたかったんです。何故かこんなに暗くなっちゃったけど…最初はちゃんと銀八銀のはずだったのにな。あれ?
SSに入れていいのか分からないけど、八土前提だからいいかなぁ、と。

銀銀、好きです(^p^)



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posted by: 高槻ソラ | SS | 09:48 | comments(0) | - |-
さあ、どっち?
両手を差し出すと目の前の男は眉根を寄せて俺を見た。


無言で俺の両手と顔を交互に見遣り、けれど意図を図り損ねた男が眉間の皺を深くする。その顔には大きくこう書いてある。『一体何のつもりだ』と。


口許に小さく笑みを乗せて俺は男に向かって口を開いた。






「Trick or treat?」






「…え、何、どしたの土方くん?」


「つまりはこういうことだ」






(俺にお前の愛を頂戴)






end.



***

お菓子(=愛)をくれなきゃイタズラするぞ。
土方さんの愛の告白。

HAPPY HALLOWEEN!!



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posted by: 高槻ソラ | SS | 16:24 | comments(0) | - |-
僕らの
ハロー、ハロー


元気ですか?


君はまだ、僕を覚えていますか?


僕はずっと、覚えているよ


ずっとずっと、君の倖せを願っているよ






二人で住むには狭すぎたあの部屋は、今はもう知らない誰かが知らない部屋に作り変えていた。
二人の記憶も、温もりも、空気も、何もかもが遥か昔の夢のよう。
くだらない喧嘩も、日常の何でもない会話も、枕元で交わす甘い言葉も。ただただ純粋に愛しいと感じていた。
だから、思い描いていた未来が、いつの間にか儚く色あせてしまっていたことに、あの頃の俺はまだ気づいていなかったんだ。






後悔はしていないけれど、もしあの時俺が君を呼び止めていたら、今頃二人でどんな日々を過ごしていたのだろう?






たとえば寒い冬の夜、間違えて買った冷たい缶コーヒーを飲みながら、誰もいない公園で丸く輝く月を二人見上げたり。
たとえばみんなに内緒で買った色違いのマフラーを揺らしながら一緒に歩いたり。
たとえば路地裏に駆け込んで、触れるだけのキスを何度も何度も交わしたり。
きっと、そんなゆるいゆるい倖せが、だらっといつまでも続いて行くのだろう。けれど。
君は、それを望まなかった。
俺も、それを望まなかった。



『二人でいること』は、二人が倖せになれる"絶対"の方法ではなかったんだ。



あの日、少ない荷物を両手に抱えて部屋を出た君の後ろ姿を、見えなくなるまでずっと見つめていた。
小さくなる背中に向かって呟いたのはたった5文字の感謝の言葉。
それと、言葉では表せないほどの、想いのカケラ。
涙は出ない。
だから代わりに笑顔で見送った。






さよなら。
きっと、俺たちはこれでいいんだ。
俺の知らない場所で、君はこれからも生きていく。
君の知らない場所で俺は生きていく。たぶんどーにかやっていけるから。
心配しないで、どうか元気で。






ハロー、ハロー


君は元気ですか?


倖せですか?


どうかどうか倖せでいて


たとえ君が俺を覚えていなくても、それが俺の倖せだから


じゃあね、さよならありがとう



end.



***

『ソラニン』イメージ



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posted by: 高槻ソラ | SS | 08:04 | comments(0) | - |-
スカイハイ・ジャンプ
ああ、まただ


またあの子は「ここ」にいない


せっかくこうして生まれてきたのに


この世界にあの子はいない


約束したんだ、何処にいても必ず見つけ出す


どれだけ姿が変わろうが、男だろうが女だろうが


必ずまた、好きだって云うって


あの子のいない世界になんて、未練はないよ


一息吐いて、地面を蹴る


速度を上げて、風をきって


今度こそは、あの子に逢えますようにって


青い空に願いを投げた




「いっけぇぇぇぇぇ!!」




くるくる堕ちる世界で、あの子が笑った気がした



end.


***

転生ネタ大好きすぎてスミマセン



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posted by: 高槻ソラ | SS | 23:32 | comments(0) | - |-
だいきらい
あの男が大嫌いだ。


あの男を形作る総てが嫌いだ。


三度の飯より糖分が大好きなところも大嫌いだ。侍のくせに、情けねェ。


つねにやる気のない態度も気にくわない。


いい歳した男が半分ニートなんて笑えたもんじゃない。


死んだ魚のような眼もムカつく。


やたら目につく紅い目は、何か良からぬことを考えている時や、こっちが嫌がることをしている時に生き生きしやがる。腹が立つことこの上ない。


いざというときにはキラめくだって?


あんなの、ほんの一瞬生気が戻るだけじゃねェか。


本来あるべき姿に戻るだけだろ。馬鹿だろアイツ。絶対馬鹿だろ。


町で顔を合わせりゃお互いつっかかって何かとくだらぬ意地を張り合う。


本当のところ、アイツ相手の喧嘩は余計な体力を使うからご免だが、逃げたと思われるのが癪だから真っ向ぶつかってやる。


同族嫌悪?俺をあんなヤツと一緒にすんじゃねェ。


俺は、アイツとは違う。


やたら剣の腕が立つところも腹が立つ。


万事屋なんて胡散臭い商売してるからそれなりの腕は必要なんだろうけど、フツー刀一本でヘリコプター墜落させるか?


あり得ねー。ホンット腹立つ。


だけど一番ムカつくのは、誰でも腕の中に抱えこむくせに、その誰にも自分を抱えこませないところだ。


なんだかんだで弱いヤツを放っとけなくて、余計なことに首突っ込んで、たとえ自分が死にかけても護り通して。


それでも自分の中の弱いところ、脆いところは決して人に見せやしない。


全部独りで抱えこんでいる。


しかもそれが自分のエゴだって気付いているから余計にタチが悪い。


それでいいんだと笑っているが、俺には、抱えこまれることを怖がっているようにしか見えない。


そんなの、辛いことから逃げてるだけだ。


アイツを抱えこむ覚悟なんて、皆とっくにできているのに。


嗚呼馬鹿だ。本当に、馬鹿野郎だ。


嫌い。大嫌いだ、あんなヤツ。


だいきらい。



end.


***

(お前はこんなにも愛されているというのに!)



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posted by: 高槻ソラ | SS | 14:53 | comments(0) | - |-
さよならとわらった
思えば俺の今までの人生といったら日々後悔の連続ばかりで、もしかするとその始まりは物心ついた頃からかもしれないなんて思うのだ、荒廃した村や町をさ迷いながら、どうして生まれてきてしまったんだろうなんてどこぞの悲劇のヒロインばりのことを純粋に思ったこともあったが、この世の中まあ成るようにしか成らないわけで、餓鬼の頃はとにかく生き延びるっていう本能のままに追剥なんてして野良犬生活を送ってなんとか食い繋いでいて、そんな俺をふらりと突然現れた先生が拾って行ってこれまた突然に俺は人並みの生活を送れるようになったけど、なんて物好きなオッサンだとか思わなかったわけじゃなく、それでもそこで出会った、バカだけど俺と正面からぶつかってきたヅラや高杉とつるむのはまあ悪くないと思っていた、でもヅラはどこまでもクソ真面目にボケ倒すし高杉は先生に変な夢を見てる可哀想なヤツだしでこいつらとつるんでることを後悔したのは少なくなく今でも時々そう思うし、しかも先生は掃除という名の破壊行為をするわ料理という名の消し炭を創作するわの生活能力皆無なまるでダメなオッサンだったものだから、すべての残骸は一緒に暮らしてた俺が処理する羽目になって、アレ何で俺こんなマダオについて来ちまったんだろうとうっかり後悔したことが多々あったのも嘘じゃない、それでも笑って、泣いて、怒って、どうしようもなく穏やかな日々で、あの頃の俺は確かに倖せだったのだと言ってもいいんじゃないだろうか、だけど炎に包まれた建物や熱風や真っ黒な煙を肌で感じながら、ともすれば炎の中へ飛び出して行きそうな高杉の叫び声や高杉を押さえるヅラの声なんかが混ざり合ってなんだかもう総てがぐちゃぐちゃで訳が分からなくて、頭の中では首だけになった先生が、笑って、いて、嗚呼どうして今の俺には力がないんだろうと自分の非力をただ呪うしかなかったし、その思いは後に俺に剣をとらせ、もうあんな後悔は二度としたくないと自分の大切なものを護るために鋼を振るって、目の前の敵を斬って、斬って、斬って、斬って、気づいた時には独り曇天の下で死体の山に囲まれ雨に打たれていた俺は俺の中身が空っぽなことに気がついた、俺の手は剣は思いは届かず両手からぽろぽろ零れ落ちていく大切なものにすまねェと一言呟くしかできなくて、嗚呼、後悔、弱い自分を斬ることはできなかったよ先生ごめんと後悔して、辰馬が宇宙へ旅立ってからすぐに俺たちの戦争も終わり、背負うことも背負われることも止めた俺はふらりとアイツらの前から姿を消して、なんて臆病なヤツだったんだとまた後悔が続いていくけれど、江戸に来てから数年が経ちババアやメガネや怪力娘だかいつの間にかまた抱え込んでいた大切なものに気づかされたんだ、結局のところ俺の今までの後悔は総て俺が逃げた結果のものだったのだ、非力を幼さのせいにして、とり零した大切なものを戦争のせいにして、言い訳ばかり巧くなって弱い自分と向き合うことから逃げ出した俺はちっとも前に進んでいなかった、なら、どうせ後悔するなら今度からはちゃんと足を踏み出してから後悔しようと決めた今決めたウンそうしよう、ところで今俺は、沢山の人が行き交う道の向こうに見つけたカッチリとした隊服を纏って煙草をふかす一見ガラの悪い男の後を辿っているのだが、決してストーカーなどではなく単に話しかけるタイミングを窺っているだけだ、何故ってそりゃあ好きなコに声をかけるのにはそれなりに勇気がいるわけで、もし話しかけてもすっげぇ嫌そうな顔して舌打ちされたりその上無視されたりしちゃった日にはいくら打たれ強いSな俺でも傷つくわけで、もういっそのことこのまま引き返して家で大人しくドラマの再放送でも見てようかと思ったのだが結局後悔するのは目に見えているし、それにたった今行動してから後悔しようと決めたばかりだろ俺ここでキメなきゃ男じゃねェぞ俺!と自分を叱咤して少しだけ早足になって、たとえ人々の注目の的になろうが知ったことか関係ねェよしやるぞと大きく息を吸い込んで真っ黒な背中に向かって、



グッバイ数分前までの俺、ハローハローこれからの俺。



さよならと、

(嗤った)










「おーぐしくん!大好きだぁぁぁ!!」










真っ赤に染まったアイツの顔に、嗚呼、やっぱり言って良かったと、



(たとえ殴られても、君の笑顔が見られたら結果オーライ!)



end.
posted by: 高槻ソラ | SS | 02:30 | comments(0) | - |-